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とりあえず一本いっとくかい? 



床、壁、天井、その全てが白で統一された、異質すぎる空間があった。

天井はおおよその目測が付かない程に高く、見上げるという行為自体が億劫になりそうになる。どこぞの小規模な体育館程度なら覆ってしまうのではないかと錯覚してしまいそうな部屋の広さなど、考える事すらバカバカしい。

そこまでの広大さを誇っているにも関わらず、部屋内には一般的に物と呼ばれるものが何一つ存在していなかった。正真正銘の白一色。まるでこの部屋に何物も存在する事自体を許されていない雰囲気を纏うその部屋は、空気も、音すらその異質さの影響を受けて凍っているのではないかと錯覚する、そんな空間だった。部屋内の温度は寒くも、熱くもないというのに。

そんな殺風景な場所のおおよそ中心であろう部分でただ一つ、異彩を放つ者が存在した。白一色の神聖さをひしひしと感じられるその場所を冒涜するような青い髪をツインテールで纏め、色という概念が消滅しているこの部屋内の中で、赤と白の二色で纏められたドレスに、バラの模様が施された赤黒いタイツで無理やりに色彩を放ち、本来なら部屋の色で埋もれてしまうはずの白のハイヒールを逆に強調させる。

顔立ちも恐ろしい程端麗に整っており、まるで絵本の中から出てきたような存在、もっと現実的な表現で例えるとするならば、お姫様だろうか。否、まるで人形のようなと言い換えた方がもっとも適切かもしれない。それほどまでに魅力的な少女だった。そんな彼女をとりまく空気は、息を取り戻し心なしか暖かくなっているかもしれない。

 彼女の名前は、古戸ヱリカ

 探偵である。

 さて、ここに来て疑問が一つ湧き上がる。何故彼女はこんな所にいるのか。その答えは単純、彼女は待たされているのである。彼女をここに呼びつけた者を、かれこれ数時間程。

「…………あら、もう来ていたのね」

 ここで、ヱリカがこの空間に入り込んできてから初めて、部屋に音が鳴った。しかし、それは既に部屋内にいたヱリカから発せられたものではない。
 彼女は慌てて声が聞こえてきた方に視線を向ける。
 いた。
彼女の、古戸ヱリカの正面から数メートル程離れたところに、彼女は音もなく現れた。その事がヱリカに得体のしれない感情を募らせる。背中を流れる一滴の汗がその証か。
その事を知ってかしらずか、不敵な、もしくは形式的なやんわりとした笑顔を見せながら、彼女はヱリカの方へを歩みを寄せていく。

ヱリカと同じ紺の髪、体格に似合った黒と白のドレスに身を包んだ彼女は、育ちが良いお嬢様という風核をひしひしと感じさせた。
年齢は、ヱリカより幼いように見て取れる。だが、彼女から漂う雰囲気はヱリカのそれとは比べものにならず、見る者を少なからず圧迫してもおかしくなさそうだ。先ほど、ヱリカを姫と称したが、それに則って言うならば、彼女は女王と言うべきだろう。身から意図せずとも放たれている彼女を取り巻くオーラは、果たして恐怖か魅力か。

「我が……主」

 恐々とした声色でヱリカが主と呼びし少女の名は、ベルンカステル。
世界で一番残酷と称される、千年を生きた奇跡の魔女。
 その魔女は、笑みを浮かべたまま彼女へと近づき、笑みをさらに深め、彼女に宣告を施す

「さあ、それでは始めましょうか、あなたへのお仕置きを……。次のゲームでも惨めな姿を私に晒させないようにするために。水に落された角砂糖が、時間をかけて水を甘ったるい砂糖水に変化させるように、ゆっくり、ゆっくりと、貴女を浸食させていく、そんな物語を」

 何故そうなったか、何故、そうならなければならないのか、説明しなければいけない段階部分を全て階段飛ばしにして、ベルンカステルはそう告げた。その意味を、真意を、目の前にいる古戸ヱリカ本人が知っているならば、あえて説明するまでもない。

表面上は優しい声で取り繕われたベルンカステルの宣言に対し、彼女は跪き、コクンと静かにその頭を垂らすのであった。

「さあ、宣言しなさいヱリカ。貴女が紡ぐ、貴女が主役のこの物語のタイトルを。私に聞かせなさい」

「……はい。我が、主」

 頭を上げないまま、彼女は機械的に応答する。しかし、彼女の顔は恐怖一色で染め上っていた。顔面は蒼白で、瞳には涙が溜まり、カタカタとなり続ける歯音を止められない。頭を上げないのは、恐怖していることを知られたくないのか、はたまた忠誠しているだけか。

「聞かせてちょうだいヱリカ、なんてタイトルなの?」

「……タイ、……トルは…………」



うみねこのなく頃に、Other Episode

≪             ≫


「そう、あなたらしい、最高のタイトルじゃない」

「光栄、です、我が主……」

「それじゃ、そのタイトル通りの事を、してあげましょうか」

 ベルンカステルが指と指を素早くこすり合わせて、小気味良い音を炸裂させる。するとどこから現れたのか、数匹の体格の小さいネコがベルンカステルの周囲で鳴き声を上げた。そのことに対してヱリカは驚きも動揺もしない。もう幾度も見た光景である。今更だ。顔に出すのもわずらわしい。その程度の認識だった。
 しかし、驚きこそないが、それを呼んだ事が、彼女の恐怖に繋がる。驚嘆することと怯える事は別なのだ。
 何をされるのかがわからない。主の考えが未だ読めない。本心を隠す妖しい微笑みと、心を読まさせない平坦な喋りが、ヱリカの焦りを促し、心臓の鼓動を加速させる。

「いい子ね……お前たち、さあ、今日のターゲットは『アイツ』よ……」

 数匹の内、一匹の頭の頭を撫でながら、ベルンカステルは空いてるもう一方の腕をゆったりと動かしながら標的を静かに指さした。その動きに合わせ、今まで喉を鳴らしていた猫が一斉に鳴き止み、指された方向、指定された人物の事を強く見据えた。
 その見つめられた本人は、八にも及ぶ視線を一身に受けた事で、僅かに体を硬直させ、思わずツバを飲む。跪いていたことで、視線が平行で届いたのもその原因かもしれない。

「ヱリカ、そのまま腕を僅かに広げて横になるか、適当な姿勢で座りなさい」

 彼女の口から、有無を言わさない命令が飛んでくる。それが意味する事の真意を未だわかりかねないものの、それに対して何の抗議も行わず、彼女は静かに跪いていた体制を崩し、腕を僅かに開けた状態で仰向けに横たわった。
 その状態からさらに彼女は、ああ、言い忘れてたけどその状態から無闇に動いちゃ駄目よ、と指示を飛ばす。
 一瞬頭の中にクエスチョンマークが浮かんだヱリカだったが、主の命令に逆らう訳もなく、動かさないと決心を付ける。

「さあ、お行きなさい。床で無様に寝転んでいるその哀れな負け犬の下へ群がり、その貪欲な舌で負け犬の傷を舐めとってあげなさい。さあ、ヱリカ、貴女はどんな反応を見せてくれるのかしら?」

 ベルンカステルが微笑むと同時に、ネコたちは軽快な音を立てながら床を蹴り、その先に寝転がっている一ヱリカの体へと一斉に群がり始めた

「……っ! 我が主、これは……っん!!」

 自分の身体に張り付いたネコが、まるで人のように服を器用に捲り上げ、自身の体、もとい右の横腹にその適度に硬く、またそれなりに柔らかそうな毛をスリスリとなすりつけ、持ち前の長い舌で彼女の肌、厳密には左横腹を舐めとっていく。

ビクビクッッ!! と、その度にヱリカの肢体は意図せず無意識に跳ね、同時に苦しそうな、それでいてどこか気持ちよさそうな声を絞り出される。

「あ……! あっ! …………! き、きもちわっっんっ!! 気持ち悪いです我がっんひっ!? ひっひぅぅ……! っぁはぁッ!! あ、あるじ、一体何をっふくぅぅ……」

「その子たちはね、ニンゲンと同程度の思考能力を持っているわ……今、何をすべきか、どうすれば一番いいのか、それをちゃんと理解し、実践することが出来る」

「あっっん……! んっっふっ服の中に……!? あッ! あん…………、っ、ぅく……んっ」 

「ヱリカ、貴女が感じてるその刺激を私が満足行くまで受け続ける事、それが、私の貴女へのお仕置きよ……存分に噛みしめなさい」

「…………ふぁっっぁぁ……はっはぁぁ……! んぁっ、……ふぅ……ふぅぅ~~~~……! な、舐めっふわひゃっ!? っあ! そっそこは…………はあぁぁあ~~~~」

「ふふ、感じてるのかしらヱリカ? それとも……」

「我が、あるじぃ…………んっっんふっっ、あ、あくっっ!! ひん! んぁ! わっわっっわっっっ! あッ!  っ~~~~~~~~~~~~~!!!」

ピチャピチャと、ネコの長い舌が己の肌を舐めとる音が静かに響く毎に、ヱリカの口から快感を感じているかのような甘いものが迸る。
出来るならば、横たわった体を起こしたり、もしくは体を思い切り捩ったり、さらには腕をがむしゃらに振り回したりして、自分を困らせているネコを直ぐにでも振り払いたい。この苦しさから解放されたい。
しかし今自分のこの痴態を愉快そうに見下ろしている魔女の主から、動くなと指令が下っている。ならば自分は動くわけにはいかない。

「あっあはは……! ふっっうぁああ!! ちょっ逃げられなっっんはぁぁ……っはひぃ! も、もうこんなっっ! んっっんっ、ぷっくくく! ぷふふふふ……あっあぁ!!」  

それでも体は正直だ。動かさないと意地になっても、ネコが体を押し付け、びっしりと生えた毛で彼女の片方の脇腹をくすぐりにかかれば、ひゃんと可愛い声を上げながら、押し付けられた方と逆方向に逃げ場を求めて身体は動くし、それを待ってたと言わんばかりに、やってきた反対方向の脇腹をペロペロと舐められては、あははと軽い笑い声を出しながら、モゾモゾと体を揺らし、腕を使ってネコを跳ね除けたくなる。身体を思いっきり動かすまいとする自分の意思もいつまで持つのか、当の本人であるヱリカすら見当もついていない。

「ふぅ! ぅッッ! んぅぅ~~~~~~~~~~~~ッッ!! ぁん……! やっやぁ…………あっあぁ…………はひ! ひひひひ…………ひぃぃん……! い……やぁ…………!」  

繰り返されるくすぐり行為に比例して、目に徐々に溜まっていく涙は主への慈悲を求めているのか、それとも別の理由からなのだろうか。

「良いザマじゃないヱリカ、振り払いたかったら振り払っていいのよ? それをやる度胸があるならの話だけど」

「…………っっんく! ふあっっあ! そこ…………ひひゃっ! …………っっふひぃ~~~~~~っ!? っっあっっぁぁあっぁあッッ!!」

 どこから持ってきたのか、盛大に飾り付けをされた椅子に座りながら、ベルンカステルは苦悶の声を漏らすヱリカを嗜虐の笑みを浮かべながら見下ろす。
 その間にも、ヱリカを悩ますネコの責めは留まらない。今も脇腹しか責められていないのだが、そもそもの脇腹自体、くすぐりに対して我慢できない場所であるのだ。ヱリカの体はプルプルと見るからに耐えかねないという様に暴れ、余裕を持たすために広げられた腕はガクガクと震える。
ネコを振り払いたいという誘惑に負けかけているのか、時折その腕が締めに入ろうとするが、なけなしの理性でも働いているのか、それはやがて止まり、再び元あった位置に時間をかけて戻っていく。その繰り返しだった。

「…………ひぃっひぃっっくひぃぃ…………! …………あっやっっ!! んふっふひひひひ……! いっっぁぁ…………! はぁぁ~~~! はぁっはぁあああッ!!!」

しかし、それも長くは持たない事はベルンカステルの目から見て明らかだった。広げられた腕を下げ始める間隔は目に見えて短くなり、またそこからの停止と復帰も、明らかに遅くなっている。このままだと、腕を戻すのもままなくなるであろう事は容易に想像でき、そこから彼女の限界が近いと察するのは容易であった。
亀裂の走った崩壊寸前の堤防。時間をおかずにとめどなく押し寄せてくる水の勢いに負け、出来た亀裂から水がこぼれ出してすらいる。彼女の精神状態はまさにそれと同意であった。我慢の限界。それが刻々と近づいているのだ。

「あはは! んっっんくくっっひひ!! ひっひぃあああああああ!?」

そんな彼女のなけなしの我慢を暴力的に押し潰す最後の一波は、ヱリカの予想だにしない、意外なところから押し寄せた。
それは彼女の広げられた腕の付け根。所謂脇の下。体格の小ささを利用して服の裾から中へ入り込んだ一匹のネコが、素肌剝き出し状態の彼女の脇をその舌で無遠慮に舐め回したのである。
脇腹から来るくすぐったさと戦っていたヱリカは、そのネコが脇の下へ攻撃を仕掛けようと服の中に侵入していたことに気づいていなかった。
多くの人にとって脇腹以上の過敏さを持つ新たな部位に不意に襲い掛かるその刺激に、彼女は叫び声を上げたと同時に、上げていた腕を早急に下ろし始めたのである。
最早何も考えていられなかった、それほどの衝撃が彼女の身体を駆け抜けた、もう命令を守るとかそんなの少しも頭に残っていなかった。ただ、自分の体を守りたいと瞬時に思い、そして反射的に腕を下ろそうとした。
だが、それは叶う事はなかった。

「ぁああッ!?」

彼女が腕を下ろしきるより早く、ボゴォッ! という音を立てながら、白い鎖のような物が床から飛び出し、彼女の腕を素早く絡め捕ると、ヱリカが元々置いてあった腕の位置よりさらに上、万歳に近い姿勢を取られる位置で固定したからだ。
それに対して驚愕をしている間にも、鎖は床から絶え間なく飛び出しては、彼女の足、胴体、と次々に纏わりつくと、瞬く間に彼女の身体を固定しはじめていった。
 あれよあれよという間に、ヱリカは鎖に全身を巻きつかれ、自由を奪われ、思うように身動きが取れなくなってしまっていた。少々身を捩ることは出来るが、仰向けで腕を高く上げている状態から体勢を変えることは出来そうにない。

「我が主……、一体この鎖はなんなのですかッ!?」

「あなたが『自分の身体を心から守りたいと思った時に反応するように』床に仕込んでおいた私の拘束魔法よ。要は戒めね。お仕置きすら享受出来ない哀れな木偶人形にはそれ相応の罰を、みたいな感じかしらね」

「そんな……私は懸命に耐えまし……」

「耐えようとするならそんな鎖は出ないように設定してたわ。それなのにヱリカ、貴女は今その鎖に絡め取られている、この意味がわかるかしら? 貴女は逃げたのよ。この罰が嫌だと『心から』思ったのよ、そんなね、罰すら受けられない愚鈍な下衆には、逃げられないようにして、『もっと厳しめの罰を与える必要があるかしらね』」

「…………え?」

「ほうら? 聞こえて来ないヱリカ? 地の底から、あなたを教育し直そうとする物が音を立ててあなたに接近しているのが、あなたの耳には届いているのかしら?」

「あ…………あ…………!」

「ほら、おでましよ」

 ベルンカステルがニタリと微笑むと同時、鈍い音を上げながら、床から細長い形をして、青黒い色をした得体のしれない物質が多数飛び出した。彼女を縛る鎖と違い、その表面には何かトゲのようなものが無数に点在し、それがこの物質の毒々しさを強調している。
 その物質は、しばらくウネウネと気持ち悪く蠢くと、やがて鎖で拘束されているヱリカの下へ先端を向けるように、ゆったりと鎌首をもたげた。

「―――――――――――――――――っ!!!!」

多数の触手らしき物質が一斉にこちらへその先端を向けたことに、声の出ない悲鳴を上げ、ヱリカは恐怖に思わず顔を引き攣らす。もしこの物質の先端に目があったなら、それらは全て自分を見つめ、そのいくつかと目が合ってただろう。そう思うと、ますます体が怖さに震え始める。

「その周りについてる棘みたいな物はね、実は柔らかいのよ。それに、触ればわかると思うけど、髪の毛みたいに一本一本が細く柔らかい物質の塊なのよ。触ればすぐに分かるわ。だけど、今のあなたにはむしろ普通のトゲだった方が幸せだったかもしれないわね」

「ヒッ! わ、我が主……これは、これだけは……! ゆ、ゆるし……許してくだ……」

「さあ、ヱリカが心からイヤだと思ったその方法で、ヱリカに教育を施してあげなさい」

 涙目で許しを請うヱリカの懇願などどこ吹く風といった調子で、ベルンカステルは冷徹に言葉を吐き捨てた。
その瞬間、彼女の方向へ先端を傾けていた触手群は、一斉に彼女の身体をその柔らかく尖った先端でコチョコチョとくすぐり始め、服から侵入、または一部を破いて強引に侵入した触手は、持ち前のトゲのような細長い物質の束を存分に彼女の素肌に擦り付け、ベルンカステルの指示する通り、彼女に教育を施していく。二度と命令に逆らえないように、彼女の身体に文字通り直接教え込んでいく。

「ひっひあぁぁあああああああッ!? あっあはは! あはははははははははははは!! くすぐったああああはっはははははははは!! っやめっっやっやめえええへへへへへへ! いぎははははははははははははははははははは!!」

 瞬間、彼女の頭の中で何かが弾け飛んだ。
 色々と脳内で渦巻いていた感情が、訪れたたった一つの感覚によって塗り潰されていく。
 抑えきることは、一瞬たりとも成し得なかった。彼女のつんざくような笑い声がそれを証明している。

 堤防は、破壊された。

「う、うあぁああはっはははははははははははは!! はげっはげしひひひひひひひひひ!! や、やっやぁぁぁ~~~~~~~!! あ~~~~~~~っははははははっははは!!」

 鎖によって動けなくされたその身体に、くすぐりという刺激はあまりにも残酷な攻撃となって彼女を襲った。
 ネコによる先ほどまでのくすぐりなど、ほんの前戯にすぎない事を、ことここに至って初めてヱリカは知る。
 それに追加して、鎖による行動の制限が、さらにヱリカに重みとなって圧し掛かる。前戯の段階で既に彼女は身体を守ろうと動いたのだ。この触手によるくすぐりが耐えられる訳がない。当然と言わんばかりに彼女の身体は防護を求めて丸まろうとする。
 だがそれは鎖によって阻害され、万歳状態から、足を伸ばした状態からの解放は決して達成されることはなく、彼女はされるがままに触手の蹂躙を受けさせれる。
 その名の通りの生き地獄が、彼女を襲う。

「くるしいぃいいひっひゃははははははははははははは!! わ、わがあるぅぅふふふふ!! あるじぃぃぃい~~~~~~~~~~!! ゆるしてくだっっくださぃ~~~~っっ!! あはははっあーーーははははははあはははははははははははは!!」

 服の中でがむしゃらに動き回る触手が彼女を順調に狂わせていく。触手の先端が彼女の肌を掠り、笑わせ、トゲのような細い毛の塊がお腹、胸などを通過してはヱリカを悶絶させる。

「うあっあっぁあはははははははははは! や、やらぁああっっやらああああははははっはははっははははははははははははは!!」

 鎖によって万歳姿勢を取らされてる結果、頭上に向けてピンと真っ直ぐに伸ばされた腕、その影響で強制的に露出させられている脇の下に、触手はその先端をあてがうと、右に左にと先端を轟かし、もどかしさの残るくすぐったさを与えていた。
 そういう刺激に対して極端に弱い脇の下での攻撃は、例えどれだけ微弱な責めであっても、十分に効果を発揮し、ヱリカを悶絶させる。

「あっあぎゃははははっははははは!! わっわきっっわきぃぃひゃああひゃひゃひゃひゃひゃ!! が、がまんできないですっわっわがあるひぃぁああああははっはははははははははははははははははは!!」

 ヱリカが脇の下から容赦なく送られてくる責め苦にイヤイヤと首を振り、身体を申し訳程度に揺らしながら悶えている間にも、他の部位への攻撃は続く。
さんざんネコ達の執拗な悪戯で必要以上に敏感になった脇腹に、触手の側面に付いている柔らかいトゲが襲い掛かる。
それは今まで脇腹を苦しめていたくすぐったさよりも数段上のそれであり、ヱリカは必死に触手を遠ざけようと身体をゆするが、触手はヱリカの身体に巻きついているため、どこに逃げようと、意味など皆無であり、触手はヱリカの脇腹に対して的確にやりたい事を施していった。

「そ、そこはっそこもやめっっあははははっははははははははははははははは! わ、わきばらだめっっもうわき腹くしゅぐらにゃっにゃひぁああはははははっははははははっはははは!! いひゃああああ~~~~~~~~~!!!」

何をやっても、どうあがいても抑えようのないくすぐったさが押し寄せてくる。しかし何よりもヱリカにとって耐えられないのは、タイツの中に侵入して蠢く触手群だった。

「ひっひぃぃぃひひひひひひひひ!! あ、あしっっあしがぁあああははっははははははは!! あっ、うあぁああはははっはははははっはあっははははは!! ちょっそれはっそれはぁああはははははは! だ、だめええええ~~~~!!」

 太ももを先端でツンツンと触られたかと思うと、そのくすぐったさは触手の周囲に無数に生えているイボが継続させ、先を進む先端は内股、膝頭、その裏、そして向う脛と徐々に侵攻し、それまでに刺激された箇所も柔らかいトゲが刺激を絶やさずに苛め抜いていく。ヱリカの想像を絶する辛さが彼女の身体を貫いていた。
 そして何よりもイヤなのが、足の裏をくすぐってくる触手だった。
 足の裏全体を触手に触れられる毎に、言いようのない衝撃が訪れ、体が否応なしにピクピクと反応し、とめどない笑い声を零れ出させる。

「あしぃぃいい!! あしいやですっわがあるじぃぃいい~~~~~!! あははは!! うひゃははっははははっははははははは!! くすぐっくすぐったぁあああはははははははっはははは!! ひひゃああひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 ぐにゃりぐにゃりと足の裏が逃げ道を求めて左右に揺れ動くが、所詮その動きは制限されたものであり、満足の行くほど動けるものではない。そして抑制された動きで、触手のくすぐりから逃れられるものではない。
 どこまで逃げても、触手は執拗に足の裏を追い、無慈悲に責め続ける。

「あひっあひぃあいあああはっははははっははははははははははは!! も、もうやぁあああああ! ここだけはっっあっっんぎゃあああっはははははははははっははははははは!! ひっやあぁああああああッッ!?」

 ヱリカの苦しそうな笑い声の中に、驚きのような声が混じった。足の裏を責めていた触手が彼女の足を僅かばかりに守っていたタイツを強引に破いたからだ。
 つんざくほどのヱリカの絶叫が響く、それは今からそれに対して何が行われるかを暗に察したからなのであろう。だがそれこそがベルンカステルの望むものであることは明白だった。掌で踊らされている。そのことを彼女はまだ気づいていない。
ヱリカの汚れ一つない真っ白な足の裏は白日の下に晒された。そしてそれを逃す触手群ではない。
 ロクに抵抗の出来ないそこに、触手は容赦なく洗礼を施していく。

「あっあぁあぁあああぁあ!? やっやっぁぁあぁあああああああああああ!! っっっぎひゃははは!! あぎゃはははははははっははははははは!! そっそれっっそれはぁぁっぁあああっはははははっはは! やっやめっっひゃめひぇへへへへへへ!! あひゃはははははははっはっははあははははははははははは!!」

 一層彼女の笑い声に激しさが増していく。ここで責めているのが人間なら、慈悲を感じて責めを緩めたりしたであろう。
 だが、今彼女を責めているのは触手で、見つめているのはベルンカステルだ。慈悲なんてくれる訳もない。
 触手はますます動きを素早くし、またくすぐり方も巧妙になっていく、踵、土踏まず、さらには足の指と指の間まで、懇切丁寧に責め立てあげ、ヱリカを地獄のどん底に突き落とし、彼女を否応なしに悶絶させる。

「っいぎゃあああははっはっはははははははははっははは!! し、しぬっっ死んじゃいますわがあるっあるじぃぃいひひひひひひゃはあははっははっははははっはははは!! あっあははははっははははははははははは!! いっいああああははははっはははは!!」

「いえ、貴女は死なないわ。……いや、私が死なせないと言った方が正しいかしらね」

「な、なんでっっどうしてですっっひぁぁああ!? あっあぁああはっははははははっははははは!! やっやぁぁああああああははっははははっははははははは!! くっくるう! 死ななくても狂っちゃいます!! いひゃあああははははっはははははははは」

「その答えはあっけない程にどうしようもなく簡単よ。それは私が魔法を使ってるから。魔法で、絶対にあなたを狂わない様に、壊れないようにさせているから。だからヱリカ、貴女は今からその触手にどれだけ可愛がられても、何をどうされようとも、絶対に正気のままでいられることが出来るわ」

「そんなっっあっあっぁぁ~ははっはははははっはははははは! そ、そんなっひどっひぃぃあっははははははっはは! あーっはははははははははっ!」


「さて、軽く見積もって三日程度このくすぐりを続けようと思う訳だけど、異論はないわよね……?」

「み、みっかっ!? あひひひひひっ! そんな、みっかなんて本当にくるっちゃいまふふふふふふふふ! ふぐひひひひひっひひひ! ひぁぁああはははははははははははははは!!」

「狂うかどうかは、あなた自身の身体で感じなさい。まぁ、一日もたてば狂うなんて考えることも出来なくなると思うけど」

「ひぃっひぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひ!! たすったすけっったしゅけへへへへへへへへへ! あはぁあああはははっはははははっはははははははははははは!!」

 ヱリカの叫びは部屋内にこだまする。それでも触手は動きを止めることを知らない。そればかりか、シュルシュルとその先端を胸部や股間にも伸ばしはじめ、くすぐったさとも快感ともしれぬどっちつかずな感情を送り始める。
 それはヱリカにとって予想外な出来事だったのか、ひときわ高くその身体を跳ねさせると、笑い声と甘い声が混じった声を捻り出しながら悶絶しはじめた

「はっはぁぁぁああっぁあああ!? あっあっぁぁああはっははははははっはうぅ!! うぁぁあああははっはははははははははははは!! やっやめっそれだめひゃぁぁはははははははっはっははは! うぁっぁぁ……ん……、んひひっっひぁぁあああんっ!!」

 触手の絡め取られ、また敏感なところをまさぐられ、笑い、感じ、ひたすらに悶えているヱリカを見下しながら、ベルンカステルは口元を横に歪める。
 このまま放っておけば、彼女は女性としての官能の頂点に上り詰めるであろう、その時間も決して長くはないことは容易にベルンカステルは察せる。
 だがそれを知ってて、彼女は慈悲を与えず、ただただ不敵に彼女を眺め続ける。
 その表情が何を示すのか、はかり知ることは出来そうにない。
 ただ一つ言えるのは、ヱリカにとって、解放という言葉は暫く無縁であるということだけだった。
 全ては、罰。 
 許されは、しない。
 ベルンカステルの、気が済むまでは……。

「あはははははははははは!! こ、こわれちゃっっこわれちゃひひゃっっいひゃぁぁああははっはははははは! あはっあはははははははははははははははッ! あっあぁあっっイッっ! あっ、あっっ、あっ!! っ~~~~~~~~~~ッッッ!! …………、ひ、ひゃぁ…………っも、もうやらぁ……やっっやあああははははっはははははははっははは! もうだっひゃ~~~ははははははははははははは!!」




END

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